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確かなもの ~ 第一回自然と抽象展“表現者の集い” 作家紹介part3

見えないけれども作家の中で確かに存在を感じられるものがあり、それが描かれた抽象作品を観ている私たちは、まるで鏡の中の自分を見ているようでもあります。


高專寺赫先生の作品はキャンバスにナイフで丹念に塗り込められたマチエールが特徴的で、今回も朱赤をベースに燃え上がるような紫紺が表現されており、不思議な奥行き感や遠近感があります。観る人によって、様々なイメージがわき上がり、自由に楽しめることが高專寺先生の作品の魅力のような気がします。


抽象画に対して“親しみやすさ”という形容詞はあまり使われないと思いますが、実際にそう感じる理由は何か、確たる答えは言葉で表現しにくいですが、その理由のひとつは作品に添えてある先生のコメントを見て、少し納得できたような気がしました。


一貫して樹木や木陰のゆらぎの中で躍動する人物を大きなテーマとして描き続けていらっしゃる西川ひろみ先生の作品を観ていると、シルエットで抽象化されてはいますが、人の表情は顔から読み取れるものだけでなく、身体全体からあふれていることに改めて気づかされます。


今回出品いただいた作品も幻想的なイメージではありますが、人物の躍動感が背景に描かれている樹木と一体化して、非常にポジティブな感情がわいてきます。深みのある色味も魅力的で吸いこまれそうになります。


谷本景先生は三重県伊賀市に生まれ、伝統ある窯元三田窯にて創作を続けられている陶芸家です。先生は幼少より陶芸に取り組まれ、20才代にヨーロッパに渡られ、パリで銅版画を学ばれています。伝統的な陶芸へ誠実に向き合いながら、その中に現代的な着想を表現されていることでよく知られています。


今回出品いただいた作品タイトルは「古代より」となっていますが、古代への想いを表現されるのも長年のテーマとされているようです。これが古代より掘り起こされたものと考えれば、時を超えて、未来へも通じる何かを感じられそうです。


川口わぐり先生は2018年6月にぎゃらりいたねからで行われた3人展「KOBOSHI展」にご参加いただきました。植物の美しさ、おもしろさ、空の飽くことのない変化する表情、風景の素晴らしさや四季の気配や匂いなど、自然から得られる様々なインスピレーションを得て、見えないけれども存在を感じられるもの、積み重ねられる生活の断片、人の心理や憧れなどを自然への畏敬の念とともに描かれています。


四角や円形のモチーフや筆の流れは日常生活の中のどこかで見たような風景やイメージを連想させ、親しみが感じられます。


坂本泰漣先生の作品タイトルは「新しい太陽」です。このテーマで10年以上も描き続けておられるようで、恐らく先生の心の中に常に映し出されている感情や意識、あるいは自然から感じられている気配など、根っこにあるものを描かれているのだと推察します。


太陽はエネルギーの根源であり、私たちの運命をつかさどっている存在でもあります。坂本先生の描く「新しい太陽」は、いずれも地上から見た姿のように思えますが、人それぞれの感性にしたがって、新しさの中に見えてくるものを楽しめればと思います。


安田隆亮先生はパステルカラーの色彩感が美しい作風で知られています。華やかな人物画と共にヨーロッパの街並みや風景もよく描かれており、今回は自然がテーマということでギリシャの風景を描いた作品を出品いただきました。


三重県桑名市を拠点に活動されており、地元の美術クラブの会長も務められるなど人望も厚いとうかがっています。作品にもそうしたあたたかな人柄が出ているようで、作品の周りからは観ている者を非常に心地よい気持ちにさせる空気感が生まれています。


皷月窯を主宰され、陶芸家でもある渡辺靖隆先生は、現代アートでも創作活動をされている作家です。陶芸作品のほうは茶碗などを単色の釉薬で絵付けされたオーソドックスなものが多く、一見すると現代アートとは別の物のようにも見えます。


しかしながら、天地の方向に運ばれた絵筆の勢いを見ていると、器に塗られた釉薬の風合いにも似ていて、先生が自然から感じ取られた根源のようなものが同じ感性で写し取られているように思えてきます。やはり根っこでは共通点があるのかも知れません。


土屋勝先生は千葉県に生まれ、デザインを勉強された後に長い期間イタリアに留学。帰国後、石彫がメインの彫刻家として活躍されています。


今回出品いただいた作品は永久運動を連想させるフォルムです。メビウスの輪などは、平面に描かれるとややもすれば不安定な印象を与えますが、先生の作品はどっしりと安定感があり、そこから肯定的な波動が伝わってきます。また丁寧に、なめらかに仕上げられた白い石の表面は人の肌のようでもあり、官能的です。



今回の企画展にはたくさんの方にご来場をいただき、誠にありがとうございました。この「自然と抽象」というテーマは、さらに企画を練り直しながら続けていきたいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

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