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宇宙、時間、人から ~ 第一回自然と抽象展“表現者の集い”作家紹介part2

出品作には宇宙のような構想スケールの大きなものから時の流れや人のぬくもりを感じさせるものまで、様々な視点で創作されたものがあります。


緒方直青先生は2018年6月のオープニング企画展、同年12月のGallery Collection 2018にも出品いただいた、ぎゃらりいたねからではすっかりおなじみの作家です。今回お願いしたコメントには、絵本制作にも携われていた緒方先生らしく、絵と同じくらいセンスあふれるファンタジックな散文をいただきました。


「菌座8丁目」、「詩人の故郷」の2作品ともまずは観て楽しみ、次にコメント読んで、描かれたストーリーを思い浮かべながら絵本のようにご覧になってみてください。緒方先生ならではの独創的な世界を旅することになるでしょう。


澄和子先生の作品はコメントにも書かれているように、日常的な生活や人間関係などでわき起こる感情や意識のゆらぎなどが視覚化されたものです。そうした心の動きや波がカタチになっているために、どの作品も一定のリズムとテンポがあり、それが非常に心地良いと感じてしまうのは澄先生の人柄が出ているからでしょうか。


今回出品いただいた花を通して描かれた作品は、繊細でありながら小さな画面から飛び出さんばかりの勢いがあります。感情や意識のゆらぎは刹那的ではあるが故に、人の根源的な部分が直に表れているようにも思えます。


石谷孝二先生は北海道で生まれ、岩手県、愛知県、奈良県で学ばれ、現在の活動拠点である鳥取県に赴任されたときに、この地ならではの豊かな自然に触れ、ある物からそれとは別の物を見る「見立て」の発想を得た方です。


今回出品いただいた「紅椿」も、お顔はおだやかな表情に見えるものの、頭の髪型は日本女性を象徴するような椿で美しさや芯の強さ、生命力のようなものが見立てられており、先生の真骨頂と言えるような作品だと思います。また、首を少しかしげたような仕草やうなじにも女性らしい動きが感じられ、味わい深い趣を楽しむことができます。


東京の渋谷駅前にあるハチ公像のご主人は東京大学農学部教授だった上野英三郎博士ですが、博士の出身地は稲垣克次先生がアトリエを構える三重県津市になります。津市内には稲垣先生が制作されたハチ公と博士の銅像もありますが、今回出品いただいたものも小品ながら微笑ましい瞬間がとらえられています。


じっとひとりで待っている渋谷駅前のハチ公はどこか寂しげですが、こちらはなんと嬉しそうなことでしょう。一所懸命になってしっぽを振る息づかいが聞こえてきそうです。具象的ではありますが、聞こえていないものが聞こえてくる、見えていない表情が見えてくるという点においては深い魅力のある作品だと思います。


篠田和幸先生は経営センスを持ち合わせたビジネスマンから65才の時に陶芸彫刻の世界へ本格的に転身された異色の作家です。ビジネスに必要な創造性と陶芸彫刻に求められるそれと、何か共通点があるのでしょうか。天賦の才能と言ってしまえば簡単ですが、成熟した大人ならではの思考の道筋が作品から見えるような気がします。


篠田先生も森先生と同様に、古代から使われている窖窯(あながま)で焼き物を制作されていますが、土の風合いがよく出ており、抽象作品も、人を描いた具象作品のどちらもとても表情が活き活きとしています。


アートに限らず、現代社会では様々なものが融合し、進化していきます。版画の世界も、もともとは木版、銅版、リトグラフ、シルクスクリーンなど多様な手法がありましたが、近年ではCGや写真なども“版”ととらえた新しい表現が広がっています。


豊田素子先生の作品もCGとシルクスクリーンが融合したものです。どちらも「追想」と題された作品は淡い色も深みのある色も美しく、繊細なグラデーションを見せています。主要なモチーフである折り重なった葉からは生命をはぐくんだ自然への敬意や時間の重みが感じられるようです。




鬼頭正信先生の出品は、作品とこれを創作する道具というユニークな組み合わせです。先生の手法である鍛金は当て金と呼ぶ“鑿(のみ)”のような道具を槌で打つことで、1枚の四角い平らな銅板から丸い器を、1つの金属の塊からカタチを生み出していきます。非常に根気のいる作業のようにも思え、打ち込む槌のひとつひとつに精気をこめていらっしゃる気がします。


出品いただいた道具の“ソケット式当て金”はなるべく創作に集中でき、打ち込む動きの自由度も高めるために先生が工夫されたものです。これらのフォルムそのものが洗練されて美しく、“作品”として観ていただく価値が充分にあると考えています。


吉村壽夫先生の現代彫刻は観念的なタイトルがつけられた、力強いフォルムを打ち出している作品を多く見かけます。コメントにもありますが、自然よりも大きな視点である宇宙の森羅万象や波動、波長による事象に関心を寄せられていることが分かります。


今回出品いただいた2つの作品は力強さというよりも、どちらも一見して楽しさが伝わってくるものになっています。ひとつひとつのパーツはJUNK(=がらくた)のようであっても、これが組み合わさって生命エネルギーがひとつの波動、波長となって、歓喜あふれるパレードをしているようにも見えます。これも自然という視点に立たれたが故のことでしょうか。いつもの作品と何が同じで、何が違うのかと考えながら観るのも楽しいと思います。


第一回自然と抽象展“表現者の集い”の会期も残り少なくなってきました。皆さまのお越しを心よりお待ちしています。

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