森から生まれしもの ~ 第一回自然と抽象展“表現者の集い・作家紹介part1

1月15日(火)から開催している第一回自然と抽象展“表現者の集い”は、おかげ様でたくさんのご来場をいただき、好評をいただいています。出品いただいている23名の作家を3回に分けてご紹介しましょう。


栃木県那須高原の森の中にアトリエを構える粕谷圭司先生は、合板を用いた木彫に40年以上取り組んでいらっしゃいます。アトリエを訪問した時は晩秋でしたが、赤々と薪が燃える暖炉やおしゃれなピアノがある自宅をはじめ、いくつかの建物をすべて自分で建てられたと聞いてたいへん驚きました。木の性質をよくご存じの上に、本当にものづくりがお好きなんだなと思います。


今回出品された「宙(そら)」も複雑に組み合わされたフォルムと、よく磨き上げられた合板ならではの美しいマチエールは圧倒的な存在感を放っています。まるで森林の中に寝転がり、時を忘れて空を見上げている時のようなやすらぎと、いきものの生命エネルギーを同時に感じさせてくれます。


前回のブログで「抽象作品を鑑賞する楽しみ」をご提供したいと申し上げましたが、作り手だけでなく、観る人の視点という発想をお持ちなのが小林修先生です。今回の全43点の中で先生の絵画作品は唯一、額装されていないことがその表われだと思います。

絵を額に入れてしまうと画面が区切られ、閉じ込められてしまうと考え、観る人と作品が響き合うために、常に最善と思われるしつらいにこだわっていらっしゃるようです。


小林先生は名古屋経済大学人間生活科学部で教授を務められていた時に、日本の美術教育における美術鑑賞のあり方に関する論文をいくつか残されています。そうした知見に裏打ちされた、一貫したポリシーが感じられます。


坂本雅子先生は静岡県三島市に生まれ、静岡を拠点に活動してこられました。静岡市の駿府城をはじめ県内はもちろん、日本全国で先生の彫刻作品に出会うことができます。普段は人をモチーフにした作品が多いようですが、今回の作品は「ミカン」。

先生にとっての自然とは、という私どもの問いに対するあまりにもストレートな答えをいただき、こちらも痛快な思いがしました。


作品は本来の色彩感である緑とオレンジのミカンと、ピンクっぽいベージュと鼠色の迷彩柄のミカンの組になっています。これを観る側として、どうイメージをふくらませるか。特に冬のこの季節、暮らしの中で身近な果実だけに楽しみどころも多い気がします。


ミカンのお隣りには平井 誠一先生が描かれた、まるまると育った「りんご」の絵があります。平井先生は、ドイツのシュバルツバルト(黒い森)を訪れ、そこでの風景から得たインスピレーションを深め、その風景画や肥沃な土地で育てられている林檎の木を描き続けていらっしゃいます。


現在は、日本の風土と伝統に根ざしつつ、折に触れて新しい息吹きを美術界に送ってきた春陽会で重要な役割りを担っておられます。15日のレセプションパーティーにもご参加いただき、「自分としては創作をやり尽くしていたと思っていたが、他の作家さんと交流して、新たなエネルギーがわいてきた」と言っていただいたのは、私どもとしても本当にうれしいことでした。


渡辺治美先生は女子美術大学の彫刻(立体アート)分野の教育の礎を築いた桑原巨守先生に師事し、自らも同校で教鞭をとっておられた方です。石の素材をメインに取り組まれており、作品にはどれもどっしりとした安定感があります。その理由は、具象彫刻の第一人者といわれた桑原先生のもとで具象を極められた後に抽象に移行されているので、ゆるぎない基本的な技術をお持ちだからだと思います。


お話ししていると大変ユーモアのある楽しい方で、今回出品された「radish」にもそうした一面が出ています。きっと抽象でしかできないことを見極め、なおかつ観る人を楽しませたいという想いがあるのではと想像しています。


辻はる子先生は2018年6月にぎゃらりいたねからで行われた3人展「KOBOSHI展」では版画家として出品されていましたが、今回は絵画作品でのご参加となりました。日々の生活の中にある草花や木の実などが持っている瑞々しい生命力やそのフオルムからインスピレーションを受けて創作されているそうです。


今回のコメントにも登場する「芹が谷公園」は東京都町田市にあり、駅から歩いて約15分なのに綠が豊かできれいなせせらぎがある公園です。公園の隣には国際版画美術館があるのでよくお出かけになるのかと思います。モノトーンに近い、しっかりとした色面を中心に構成された画面は力強く、先生が感じられたイメージが鮮明に映し出されています。


今回のブログは森のアトリエの話から始まったので、最後もそれで締めましょう。

森正先生は鈴鹿山脈のふもと、森や川など豊かな自然に恵まれた三重県菰野町にアトリエを構えておられています。以前、そのアトリエを訪ねた時のことは今でも忘れられません。アトリエに近づくと、草の陰から焼き物で創られたいろんな動物が姿をあらわし、緑豊かな森の中でおとぎ話の世界に足を踏み入れたような気分になったものです。


森先生は登り窯以前、つまり5世紀ごろから16世紀半ばまでは主流だった窖窯(あながま)という古代からの手法にこだわって焼き物を制作されています。今回出品いただいている作品も様々な想いが濃縮されて詰まっている緊張感を感じつつ、自由で生命感あふれる表現に先生らしさを感じます。


次回もさらにたくさんの魅力的な作家の皆さんをご紹介します。

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