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緒方直青展~「果てしない遊戯」への旅

緒方直青先生の東京では15年ぶりとなる個展の会期も終盤にさし掛かろうとしていますが、これまでご来訪いただいた方にはたいへん高い評価をいただいています。

私どもは先生の作品を「 観る者の想像力をかき立て、空想の世界に誘う」と記していますが、体験された皆さんはそれぞれ自由にイメージを広げられる楽しい“旅”となり、満足度が高いようです。

今回は、その魅力の要因のひとつでもある先生独特の創作技法についてご紹介します。


人は誰しも子どもの頃、畳に寝転がるとそこに見えた天井の板の木目やシミを動物の顔に見立てたり、山々の連なりをイメージしてその中を散歩したり、子どもなりの無邪気な想像を広げて遊んだことがあると思います。


緒方先生の表現の根底にあるのはこの遊びにも似た発想です。

作品の下地を制作される過程で、先生のこれまでの人生で起こったこと、見たり感じたりされたことが様々なイメージとなってわき上がってくるそうです。


先生は作品のことをタブローと呼ばれ、わき上がったイメージを重ねるようにどんどん描き加えるので、カンバス(画布)ではひび割れなどが起こるため、板をベースに下地を作った上に実際の表現をされます。


その工程は板に布を張り、石膏を塗ったものを、テンペラ画などの下地として使われる樹脂系の地塗り剤で固められます。その上に油絵具やアクリル絵具、色鉛筆などあらゆるものを使って表現していくそうですが、お話を聞くと、地塗り剤で固めた時点が先生にとって非常に重要だと思われます。


冒頭に天井の板の例を挙げましたが、地塗り剤で白く固められた表面にはでこぼこや穴、細かい筋などが無作為に生まれます。そしてそれらを見つめていると、自然に描くべきイメージが広がっていくそうです。


そのイメージの源泉となっているのは、先生がこれまでの人生で見たり、体験されて、細胞にしみ込んでいるものだそうです。なかなか難しいとおっしゃいますが、自分の感情にすら支配されず、わき上がってくるものを自由にさせて、そのままを描くことに専心されています。


先生は三重県津市で生まれ育たれていますが、転勤族だったご両親がこの地に住まいを定められた時は新参者だったため、小中高校生時代はよそ者扱いを受けたことがよくあったそうです。ただそれは疎外感につながることなく、むしろ古いしがらみから距離を置くことができたおかげで、自由を大切にするようになったそうです。


そうした先生のお話を聞くと、人生には無駄なことはない、意味のないものなど何もないと改めて感じます。また先生が描かれる独特の世界観から伝わってくる非常に肯定的なエネルギーの源は、先生のこうした姿勢から来るのではないかとも思います。


先生が現在の創作手法にたどり着くまでに10年以上の年月を費やしたそうです。リーフレットで先生自身が述べられている「果てしない遊戯」とは、この創作手法を得てからのことを指しますが、「私もできるだけ意味を置き去りにして」と語られているように、自分自身を無に近いような存在となるよう努力され、見たものをできるだけ純粋なカタチで届けようとされている媒介者としてのふるまいのおかげで、私たちは先生の作品の中で自由に遊び、旅することができるのだと思います。


会期も残り少なくなっていますが、皆さまもぜひ、緒方先生の「果てしない遊戯」の世界へ遊びにお出かけください。

この好評いただいている素晴らしい作品をお見逃しなく。心より、お待ちしています。

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